製造現場に変革をもたらすスマートファクトリー デジタルで未来を切り拓く
スマートファクトリーのめざす姿
医薬品業界の製造部門においてもデジタル技術活用の波は訪れています。医薬品業界において、これらの技術を製造現場に取り入れることで、生産性向上や品質の安定化、コンプライアンスの強化、更には働き方改革など新しい付加価値の創出が期待されています。このような取り組みは医薬品製造の未来を左右する重要な取り組みとなっています。
当社では、デジタル技術を製造現場に積極的に取り入れ、スマートファクトリーの実現を目指しています。
具体的には、IoTセンサーによるデータ収集、AIを活用した予知保全、自動化・ロボット化の推進などに取り組んでいます。
業務変革に向けて4つのシステムの開発・導入を推進
2020年からデジタルを活用した業務変革に向けた活動を開始し、工場全体の最適化を目指しています。そのための手段として、4つのシステムの開発・導入を推進し、作業計画の立案、業務アサインから実行まで、工場全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進め、スマートファクトリー実現に向けた第一歩を踏み出しました。
開発したシステムの背景と成果 作業計画とアサイン自動化システムの開発で、製造現場に大きな変化
製造作業割り当て自動化システム「PANDA」の導入
作業計画とアサイン自動化システム(通称:PANDA※1)は、製造における作業の割り当てを自動で計画し実績の記録までを行うシステムです。
従来、作業に合わせた従業員の割り当ては、製造工程、設備を熟知した熟練者が、割り当てる従業員の作業者認定の有無、熟練度、育成、休暇取得などを加味して、割り当てる職人の技でした。
※1: | PANDAとは、開発した計画系システムの愛称です。機能(Planning、Assignment、Navigator、and Dashboard)の頭文字から、愛着を込めて社内ではPANDAと呼んでいます。 |
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PANDAで実現した製造現場の最適化と生産性向上
PANDAの導入により、製造現場では大きな変化がありました。作業者の認定レベルや製造ラインの特性を考慮した上で、工程の計画立案と実績管理が可能になりました。
これにより、適切な人員配置と工程管理が可能となり、また品質管理部門ともデータ連携し、リアルタイムで工程の進捗状況を可視化できるようになりました。その結果、生産性の向上が図れるようになりました。
- 工場全体の作業計画を一括で立案
- 計画や進捗が一元管理され、各メンバーが手軽にわかる
- 戦略的な人財育成を実現
- ラインごとのアサインではなく、工場全体で要員配置を最適化/効率化
開発活動の苦労と今後の展望 更なる自動化にも活かせる経験と信頼関係
製造現場との信頼関係構築が生んだ自動化の成功と今後の課題
開発当初は、製造部門、IT部門および協力会社の方との間で業務用語の違いからギャップがあり、コミュニケーションに苦労しました。
私はPMO※2の立場として、お互いの意見を踏まえて、どのように進めるかを日々悩みながら、全員で多くのコンフリクトを乗り越えてきたと思います。
また、人的要素を完全にシステムに取り入れることは難しく、作業者の経験則に基づく手動での調整作業が必要不可欠でした。
このプロジェクトを通して、システムの技術面だけでなく、人と人とのつながりが何より大切だということを学びました。製造現場の方々との信頼関係を構築できたからこそ、お互いを理解し合い、システムを現場に適用できたのです。
今後の自動化に向けては、更に詳細なデータ収集が必要になる可能性がありますが、この経験を活かせば、製造現場の方々と連携を取りながら、新たな課題にも立ち向かえると確信しています。
※2: | PMO(Project management office) |
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現場とITの溝を越えた相互理解とシステムパラメータ構築の苦労
コミュニケーション、用語の理解は、IT部門および協力会社の方と共にお互いに本当に苦労しました。
製造部門として製造ラインごとの特性や医薬品ごとの違い、製造部門の私たちも細かいニュアンスをどう伝えればよいか悩みながら、一つひとつを説明して、理解いただき、徐々に話の進みがスムーズになっていったように思います。私も、IT関連の用語について、教えていただき理解が進み、とても勉強になりました。
PANDAのマスター情報の構築、入力作業は大変でした。自分たちの理想とする工程管理を実現しようと膨大なマスターレシピが必要となり、どこまでの階層を構築するとよいか作業者の習熟度をどれくらいの幅で数値化するかなど、システムに合わせたバランスを構築するのは苦労しました。
立案した計画を手動で微調整しながら、マスターレシピを変更し育てていった感覚です。
これまでの経験と信頼関係を土台に、新たな自動化の課題に挑戦
中外製薬工業では、更なる自動化に向けた次のステップを控えています。
データ分析に基づく工程改善が期待されていますが、必要となるデータの粒度を再検討する必要があり、新たな課題が生じる可能性があります。
システムを活用した業務変革(DX)はまだ道半ばです。明確なゴールがあるものではなく、継続して取り組むものであると考えています。
今後の更なる展開を見据えてこれまでに培った信頼関係を活かして更なるチャレンジをしていきたいと思っています。
デジタルで未来を切り拓く決意
当社は、スマートファクトリーの実現を通じて、患者さんに革新的な医薬品をいち早く届けることを目指しています。そして、当社の理念や想いに、共感してもらえる人財を惹きつけ、将来に向けた飛躍の原動力としてともに活躍してもらうことを期待しています。
デジタルビジョン
中外製薬生産技術本部とともに、2030年のデジタルビジョン「デジタル技術を活用することで、開発・生産プロセスの革新を促し、世界と時代をリードする最先端のスマートファクトリーを実現する」を目指し、達成に向けて取り組みます。
※紹介内容等は取材時(2024年8月)のものとなります。