品質を、文化に —“なぜ?”から始まるQuality Culture

患者さんの「信頼」を支える品質文化(クオリティカルチャー/Quality Culture)への挑戦

私たちが扱う薬は、患者さんの身体に直接作用しますが、外観からその良し悪しを判断することはできません。だからこそ、患者さんは薬の品質を信じて服用します。
この患者さんとの信頼関係の上に、私たちの仕事は成り立っています。

医薬品業界では法規制の遵守(コンプライアンス)が重視されますが、私たちは規則の単なる遵守に留まらず、その先にある「患者さんの信頼に応える高品質な医薬品を提供する」ことをゴールに掲げています。
医薬品の品質だけでなく、患者さんに届くまでの業務プロセス、情報、そして人財すべてを“品質”と捉え、常に「あるべき品質とは何か?」を問い続け、改善し続ける姿勢を、全社のポリシーとして位置づけています。

これらを私たちのDNAとして組織全体の文化に根付かせ、将来にわたって継承していくために、全社的な設計図「Q-Plan」に基づき、Quality Culture(クオリティカルチャー)醸成活動を展開しています。

品質向上の設計図 全社横断プログラム「Q-Plan

Quality Culture醸成活動を体系的に推進するため、中外製薬工業ではQ-Planと呼ばれる全社横断の品質向上プログラムを運用しています。Q-Planは、私たちが目指す長期ビジョン“Quality Vision 2030”達成に向け、品質向上のための活動や仕組みを束ねて段階的に展開するロードマップです。

Quality Vision2030:中外製薬グループが目指す、2030年に向けた品質ビジョンと品質ビジョンを達成するための要素を三角形で表現。患者中心の価値創出、質と効率の飽くなき追求、全員参加の品質文化という3つの要素が連関することで、中外クオリティが社内外に浸透することを目指していることを視覚的に伝える図です。
Q-Planロードマップ:Q-Planの全体像を時系列として示す図。2023年から2030年までを4つのステップに分割し、ステップごとの重点目標やマイルストーン、品質文化醸成の進捗ステップが一目で把握できるように整理されています。

Quality Cultureの骨格 Quality Cloverという目指す姿、Beyond Complianceという考え方

中外製薬グループでは、クオリティを追求する組織風土が大切だと考え、目指す姿を「Quality Clover(品質の四つ葉)」と呼ばれる4つの要素で可視化しています。
Quality Cloverは、品質文化を構成する要素をわかりやすく示したもので、文化醸成に必要な領域を網羅しており、社員の意識や職場のコミュニケーションにも深く関わる内容です。
これら4つの要素を日々の業務で体現し、高品質の医薬品とサービスを提供し続けることがQuality Cultureの目指す姿です。

Quality Clover:Quality Cultureの目指す姿を「Quality Clover(品質の四つ葉)」と呼ばれる4つの要素で可視化しています。4つの要素は「意識・心構え」「コミュニケーション」「社員参画」「リーダーシップ」であり、これらが品質文化の柱であることを象徴的に表現しています。
  1. 1.意識・心構え 全ての革新は患者さんのため ・常に患者さんを第一優先に考えている ・決められた手順にただ従うのではなく、常に”なぜ”を考えて行動する(Beyond Compliance) ・クオリティに関心を持ち、自律的かつ継続的改善に取り組んでいる
  2. 2.コミュニケーション 全ての意見が大切にされる ・組織・階層にとらわれず、必要な情報が必要な人に伝わる ・遠慮や恐れなく問題を提言できている ・過去の失敗や教訓が伝承されている
  3. 3.社員参画 全社員が当事者意識を持つ クオリティに対して当事者意識を持って関わっている ・共通の品質目標に向けて一致団結している
  4. 4.リーダーシップ 経営陣が行動で Quality を後押しする ・クオリティの重要性を品質目標や目指す姿として発信している ・自らが率先して目指す姿の模範を示している ・クオリティを高める判断や行動を正しく評価して支援している

Beyond Compliance

4つの要素の中で特に強調されているのが「Beyond Compliance」の考え方です。私たちは単に規則を守るだけでなく、「なぜこのルールが定められているのか」「もっと良い方法はないのか」を常に考え、自らがプロセスやルールを改善する姿勢を大切にしています。

具体的な取り組みと成果 GEMBA WALKHuddleWAKUWAKU

Quality Cultureを根付かせるため、中外製薬工業では様々な仕組みと活動を導入しています。その代表例としてGEMBA WALK(現場経営層対話)、Huddle(課題共有ミーティング)、そしてWAKUWAKU(改善提案制度)の3つの取り組みがあります。これらはトップダウンの仕組みとボトムアップの行動を結びつけ、Quality Cultureを醸成する好循環を生み出しています。

GEMBA WALK(現場ウォーク)

経営トップや管理職が定期的に製造・研究の現場を訪問し対話する活動

GEMBA WALKは経営トップや管理職が現場の声を直接聞き、意見交換をする活動です。現場とマネジメントの一体感が醸成され、経営トップからのメッセージ共有も相まって組織全体の方向性を統一する効果があります。
また、社員アンケートでも「GEMBA WALKを通じて働きがいが高まった」との声が多く寄せられており、この取り組みは社員のモチベーション向上にもつながっています。

Huddle(ハドル)

現場のチームで行う短時間の定例ミーティング

Huddleは現場の課題を共有・エスカレーションする習慣を根付かせる取り組みです。
短い時間で頻繁に情報共有するHuddleの習慣は、問題の早期発見・早期対応を促し、また課題を個人ではなくチームとして取り扱えるようになるため、社員の心理的安全性向上にも寄与しています。

WAKUWAKU(ワクワク)

社員からの主に作業手順の改善提案を募集・実行する制度

WAKUWAKUは日々の業務の中で感じた「この手順は変えられるのでは?」「ここを改善したい!」という声を、年次や部署を問わず誰でも投稿できる仕組みになっています。Q-Plan活動に社員参画を促すボトムアップ施策の一つであり、業務フローや手順書の改善アイデアが集まっています。
この仕組みによって、知見の共有が部署やサイトの枠を超えて進み、私たちのQuality Cultureを醸成する原動力の一つとなっています。

以上のように、GEMBA WALK(トップダウンによる対話促進)とHuddleWAKUWAKU(ボトムアップによる課題提起と改善)は、両方向からQuality Cultureを支える“車の両輪”のような存在です。
これらが連動することで、仕組みと行動の好循環が生まれ、Quality Cultureが着実に定着しています。

現場の変化 感じられる手応え

Quality Culture推進の取り組みを通じて、現場では少しずつではありますが、確かな変化が生まれ始めています。日々の業務の中で、社員一人ひとりが「品質とは何か?」を考え、行動に移す姿勢が根付きつつあります。以下に、現場で感じられている主な変化のポイントをまとめます。

変化の側面と主な効果

  1. 1.課題の早期共有
    Huddleにより、課題の早期相談・対応が定着。手戻りの削減に貢献。
  2. 2.業務の効率化
    作業の手順書や業務フローの改善が進み、引継ぎ事項の明確化や意思決定の迅速化が実現。
  3. 3.心理的安全性
    「おかしいと思ったことを言える」雰囲気が広がり、若手も意見しやすい。
  4. 4.経営との距離縮小
    GEMBA WALKを通じて、現場の声が経営に届きやすくなり、信頼関係が強化。
  5. 5.若手の参画
    HuddleWAKUWAKUを通じて、若手社員の主体的な改善活動が増加。

こうした変化を通じて、Quality Cultureは現場にとってより身近なものとなりつつあります。改善提案や対話の機会が増え、部署や役職を越えた協力が自然に生まれるようになっています。
文化は静かに、しかし着実に根付き始めており、社員一人ひとりがその担い手としての意識を高めています。

社員の声 現場からのリアル

現場での変化をよりリアルに感じていただくために、Quality Culture醸成活動に取り組む社員の声をご紹介します。

Quality Culture 醸成活動タスクメンバー

最初に驚いたのは品質に対する熱量の高さ

中外製薬工業のQuality Cultureは、国内トップレベルだと自負していますが、そこに満足せず、世界基準を目指して進化し続ける姿勢が私たちの強みになっていると思います。

前職も製薬会社に勤務していましたが、中外製薬工業に入社して最初に驚いたのは、品質に対する熱量の高さです。少しのトラブルでもすぐにディスカッションが始まり、対策や改善の話し合いが自然に行われる文化に驚きました。
Quality Culture醸成活動に参加する中で、現場の変化も実感しています。定点観測の結果が少しずつ改善され、活動の社内広報活動に対するリアクションも増えてきました。「なぜ?」を問う姿勢が根付き、現場でもその問いが日常的に交わされるようになっています。
私はQuality Cloverの4要素を日々の業務で意識し、行動に移すことを目指し、自分自身がその価値を体現できる人財になろうと努めています。

Quality Culture 醸成活動タスク推進リーダー

導入に苦労したものの、
Huddleを起点に多くの業務改善が実現

中外製薬工業では、誰もが「患者さんに高品質な薬を届ける」という目的意識を持ち、日々改善に取り組んでいます。
これからも、改善を続けるQuality Cultureを育てていきたいと思います。

中外製薬工業でQuality Culture醸成活動を推進する中で、特に印象に残っているのはHuddleの導入です。
最初はなかなか理解されず、導入に苦労しましたが、粘り強く対話を重ねることで少しずつ広がり、今では日常的に活用されるようになりました。活動を通じて、部署を超えた一体感が生まれ、現場の課題を共に解決するという組織文化が根付きつつあります。
Huddleを起点に多くの業務改善も実現しており、この仕組みの価値を日々実感しています。
Quality Cultureは、指示されて醸成されるものではなく、まず行動してみることでその価値を実感し、実感が継続と普及を促すことで、自然と根付いていくものだと考えます。

生産QA部 マネージャー

取り組みを通じて、若手社員も意見を伝えやすい環境が醸成されている

Quality Cultureは、与えられるものではなく、現場で育てていくもの。一人ひとりが自分の強みを活かし、リーダーシップを発揮できる環境を整えることが、マネジメントの役割だと思っています。
これからも、改善を続けるQuality Cultureを育てていきたいと思います。

中外製薬工業では、品質保証を担当する生産QA部(以下QA)メンバーが現状を守るだけでなく、変えたいと思っていることを率直に伝えられる風土があります。
現場とQAが各領域のプロフェッショナルとして意見を交わせる関係性が育まれており、私たちマネジャーはその「意見を言いやすい文化づくり」をとても大切にしています。
WAKUWAKU活動やHuddleを通じて、若手社員の意見も平等に扱われ、心理的安全性が着実に醸成されていると感じています。
今後はDX(デジタル技術で業務プロセスや組織を変革する取り組み)やIT技術を積極的に取り入れながら、業務の可視化や改善提案のデジタル化などを通じて活動の加速を図り、より多くの社員が自発的にQuality Cultureを体現できるよう支援していきたいです。

どの声にも共通しているのは、「自分たちがQuality Cultureを育てている」という前向きな実感と誇りです。社員一人ひとりが自分の仕事と品質改善を結びつけて捉え、主体的に行動することで、組織全体の雰囲気も着実に変わりつつあります。

変革の旅は続く Quality Cultureの進化は止まらない

中外製薬工業が挑戦するQuality Cultureの醸成は、単なる品質管理手法の導入ではなく、人と組織の意識改革です。これまで紹介したような施策の積み重ねにより、社内の風土は着実に変わり始めています。もちろん、まだ道半ばではありますが、社員一人ひとりが「自分の仕事が患者さんの“信頼”につながっている」と実感し、誇りと責任を持って行動する文化が確実に育ちつつあります。そしてその文化は、患者さんが安心して服用できる医薬品を届ける力となり、私たちの存在意義を支える根幹でもあります。

品質は信頼のかたち。
私たちはこれからも、世界トップレベルの品質文化を目指し、挑戦を続けていきます。

※紹介内容等は取材時(2025年10月)のものとなります。

私たちの挑戦